巨峰、日本葡萄愛好会の源流

日本葡萄愛好会は、昭和 36(1961)年に創立以来、令和 3 年で 60 周年を迎えました。

日本葡萄愛好会の流れの源流を振り返れば、日本のブドウの歴史上燦然と輝く成果である 「巨峰」 にたどり着きます。巨峰は、在野の種苗研究者であった大井上康先生が開発した品種です。大井上康先生は、戦前の昭和 12 年から静岡県伊豆市で新しいブドウの品種の研究を続け、ついに昭和 17 年 「巨峰」 という今までにない素晴らしいブドウの開発に成功しました。

巨峰は、大粒のうえにおいしいという、かつてない優秀な性質を持ち、その後の日本のブドウの方向を決定付けた大発明で、現在でも、消費者に最も好まれているブドウです。

巨峰が栽培され始めてしばらくして、ブドウの品種改良の重要性に着目し、新しい品種を創生する活動が生まれてきました。品種改良は生涯賭けた息の長い研究・開発が必要であるから、官製ではなく民間でやろうという機運が高まりました。

澤登晴雄氏による呼びかけと生食用ブドウの品種改良

そして、前理事長澤登晴雄による新しい日本のブドウ品種を作ろうという呼びかけに応えて数十人の人が集まり結成されたのが、現在の日本葡萄愛好会の前身の日本葡萄品種愛好会です。昭和36年3月19日に、東京の国立の農業科学科研究所にて設立総会を、8月に同所で第1回の会議を開き、会則等の検討を行いました。

巨峰栽培が全国に拡大していくとともに、巨峰を中心とする、いわゆる4倍体の研究と栽培が盛んになりました。日本葡萄愛好会の生食用品種の代表であるブラックオリンピアもそのうちの一つで、そのおいしさは巨峰を凌ぐほどと評判になりました。また、ピオーネ(井川 250 号)も会員であった故井川秀雄氏が作出したものです。

日本葡萄愛好会

世界的に見ればブドウの90パーセントは加工用ですが、日本では生食用が主です。このような環境の中で、生食用ブドウの品種改良が進み、日本葡萄愛好会は、おいしいブドウの代表である巨峰群4倍体のブドウ品種を全国に広げました。

このように生食用ブドウのとしての確かな評価を築いたのは、日本葡萄愛好会の功績であり、愛好会メンバーの方々の努力の結果であることは紛れもない事実です。

日本の風土に合ったワイン用ブドウの開発

一方、ワインについても、日本葡萄愛好会の澤登晴雄初代理事長が日本の風土にあった加工用ブドウの品種を複数開発し、発展の基礎を築きました。

ブドウの主な原産地は、シベリア(アムレンシス系)と中央アジア ( ベニフィラ系 )、そしてアメリカ東北部とカナダ東部の五大湖周辺 ( ラブラスカ系 ) の三系統です。ワイン作りが盛んなヨーロッパのブドウは中央アジアが原産地であり、ヨーロッパが原産地ではありません。

前理事長は、シベリアのアムレンシスの流れを直接受け継ぐ日本ヤマブドウに注目し、これを元にしての品種改良に半生を費やしました。日本ヤマブドウを元にしたのは、正に日本のブドウとワインの将来を見越した慧眼でした。

澤登晴雄初代理事長は、心血を注いで日本ヤマブドウを元に多くのワイン用品種を開発してきました。これらのワイン用品種は日本各地で栽培され、地域のワインメーカーと協力したブドウ農家の栽培努力が実を結んでいます。

日本の風土と気候に適したワイン用ブドウが根付いて30数年、粘り強い努力によって成果が出てきたと言えます。たとえば、かつてない上質な赤ワインを生み出す小公子という極めて有力なワイン用品種の栽培についても会員の中で栽培経験が蓄積し、今後の展開が最も楽しみなヤマブドウ系の品種です。

ヤマブドウ・ヤマブドウ交配種のワインは外国のコンクールで入賞するなど、品質的にも国際的評価を獲得するまでになってきました。

国際市場に出しても恥ずかしくないワインを日本葡萄愛好会の品種から作ることができる、という自信を私たちは持ちました。ヤマブドウ・ヤマブドウ交配種の今後の可能性に期待が持たれています。

有機栽培への挑戦

タネの有無や色の好み及び粒の大小等も含め、日本葡萄愛好会の品種には、栽培者の努力でブドウ本来のおいしさを引き出す多様なものが揃っています。品質を追求することに関して大きなテーマは、化学肥料と農薬に頼らない有機栽培です。

有機栽培は、日本有機農業研究会の代表幹事 (理事長) もつとめた初代理事長の強い思いであり、澤登芳前理事長も推進・実践し今に引き継がれる日本葡萄愛好会の最初からのテーマです。

これについては、今もって私たちが追求すべき大きな目標でありながら、実態は必ずしも満足すべきものではありません。

ブドウはもともと砂漠の乾燥地帯の植物であり、高温多湿の日本での栽培に無理があるからです。そのため、現在のブドウ栽培のほとんどを占めている4倍体はこの性質を受け継いでおり病気を防ぐために何らかの方策が必要です。

しかし、日本のヤマブドウを親とする品種は乾燥地体質が入っていないため、少しの工夫によるアジア的栽培環境を復元してやれば、日本の風土・気候の中での特徴を最大限に発揮します。化学肥料を使わずに、おいしさも見た目も消費者の嗜好に合ったものを作ることが可能であることは、多くの会員が経験しています。

TOP